1,遺言で何を決めることができるのですか? (遺言に関するQ&A:その1)
基本解説
遺言とは、遺言者が自分の死後の法律関係(財産や身分など)について、一定の方式に従って定める最終的な意思表示であり、その死後にそれに則した法的効果が与えられるものです。
この遺言としての法的効果が認められるのは、法が定めた事項に限られます。これを遺言事項といいます。
遺言事項以外の事項を遺言に記載しても、それについて法的な効果は認められません。
遺言事項は次のとおりです。
- 相続人の廃除・その取消し
- 相続分の指定・指定の委託
- 特別受益の持ち戻しの免除
- 遺産分割方法の指定・指定の委託
- 遺産分割の禁止
- 共同相続人の担保責任の指定
- 遺留分減殺方法の指定
- 遺贈
- 財団法人設立のための寄付行為
- 信託の設定
- 認知
- 未成年者の後見人の指定
- 後見監督人の指定
- 遺言執行者の指定・指定の委託
- 祖先の祭祀主宰者の指定
- 生命保険金受取人の指定・変更
Q&A
Q1 かわいいペットに財産を残すことはできますか?
A ペット自体に財産を残すことはできません。
いくらかわいいペットでも法律上は「物」です。財産を残す相手は「人」でなければならないので「物」であるペットに財産を残すことはできません。
自分の死後にペットがどうなるか心配な場合の対策としては、「負担付き死因贈与」と「負担付き遺贈」が考えられます。
負担付き死因贈与とは、生前に相手方と契約を結び、その契約の中で「ペットの飼育の依頼及び飼育方法」と「その代償として遺産の一部を贈与すること」を定めておくものです。負担付き遺贈とは、遺言で「ペットの飼育の依頼及び飼育方法」と「その代償といて遺産の一部を遺贈すること」を定めておくものです。
負担付き死因贈与は相手方との契約であるのに対し、負担付き遺贈は単独行為(遺言)であるという点に差異があります。死因贈与の場合は相手との契約ですので相手(受贈者)との合意が必要であることは当然なのですが、遺贈の場合にも受遺者(遺贈を受ける者)となる者は遺贈を放棄することもできるので、必ず事前に相手と話し合って了解を取っておく必要があります。
また、相手が本当にきちんとペットの面倒をみてくれるかどうかは、あなたの死後のことなので確認することができません。よって、相手方には信頼できる人を選任する必要があるでしょう。
なお、負担付き遺贈の場合なら、遺言に遺言執行者を指定しておくと、本当にきちんとペットの面倒をみているかどうかをその遺言執行者がチェックし、きちんと面倒をみていなければ、きちんと面倒をみるように催告をして、それでもダメなら家庭裁判所に当該遺贈の取消しを請求してくれます。(このことが相手方に対する実質的な強制となるでしょう)
Q2 借金を特定の相続人に負担させることはできますか?
A
遺言書で借金(債務)の負担割合を定めても、相続人間ではともかく、債権者との関係では当然には効力を生じません。
債務は各相続人の法定相続分に従って相続されることになります。遺言書でそれと異なる負担割合を定めても、債権者がそれに同意をしない限り、それをもって債権者に対抗することはできません。つまり、遺言書の内容では債務を負担しないとされた相続人に対しても、債権者はその相続人に法定相続分に相当する債務の支払いを請求できるのです。
Q3 遺言に記載し忘れた遺産があった場合、遺言は有効ですか?
A 有効です。
協議をすべき相続人に漏れがあった場合とは異なり、遺言に記載し忘れた遺産があったとしても、その遺言が無効になることはありません。通常は、単に記載し忘れた遺産について遺産分割協議が必要となるだけです。
Q4 遺言事項以外の事項を書いた場合、遺言は有効ですか?
A 有効です。
遺言としての法的効力が認められるのは法定された遺言事項のみですが、それ以外の事項が記載されたとしても遺言が無効となるわけではなく、単にその事項については遺言としての法的効力が認められないだけです。
遺言事項以外の事項のことを付言事項といいます。
Q5 相続人の遺留分を害する内容の遺言は有効ですか?
A 有効です。
遺言内容が遺留分を害するとしても、それだけで遺言が無効となるわけではありません。ただ、遺留分を侵害された相続人が遺留分減殺請求をしたときは、その限りにおいて遺言の効力が否定されることになります。
Q6 遺留分を主張すると他の相続人の遺留分に影響を与えますか?
A 影響を与えません。
遺留分は相続人ごとに個別に考慮されます。
たとえば、相続人が甲・乙・丙でそのうち甲・乙の遺留分が害されている場合、甲が遺留分を主張(遺留分減殺請求)しようがしまいが乙の遺留分には影響を与えません。甲が遺留分を主張したら乙の遺留分が減るということはないのです。
なお、遺留分を主張するかしないかは各相続人の自由です。
Q7 遺言内容を確実に実行させるためにはどうすればいいですか?
A 遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。
遺言執行者とは、遺言執行の目的のために特に選任された者をいいます。遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることはできなくなります。
遺言執行者には、遺言により指定された指定遺言執行者と、家庭裁判所により選任された選任遺言執行者とがあります。遺言事項の中には必ず遺言執行者が執行手続をとらなければならないもの(遺言による認知、遺言による相続人の廃除・その取消し)があるところ、遺言により指定されていない場合には家庭裁判所が選任することになるのです。また、それ以外の場合でも相続人など利害関係人が家庭裁判所に申し立てて選んでもらうことも可能です。
ただ、遺言で遺言執行者を指定していたとしても、指定された者が必ず遺言執行者に就任しなければならないわけではなく、辞退することが可能です。よって、遺言で指定する場合には、事前に了解を得ておく必要があります。
また、遺言執行者は相続人の中から指定してもかまいませんし、複数人指定してもかまいません。遺言執行者には専門的な知識が要求される場合もあるところ、相続人から一人、専門家(弁護士や行政書士など)から一人というように、複数人指定おくと、遺言執行がスムーズに進むでしょう。