幸せを呼ぶ遺言書のすすめ
なぜ人は遺言書を書かないのか?

「遺言書」という言葉を
聞いたことがない人はいないでしょう。

現に最近は、遺言書を書く人が増えてきているようです。

しかしそれでも、
実際に遺言書を書いているという人は、
全体から見ればまだまだ少数に過ぎません。

では、なぜ人は遺言書を書こうとしないのでしょうか?

その理由としては、
大きく分けて以下の4つのことが考えられます。


「遺言書を書くほどの財産はない」
「法律どおりに分けてもらえればいい」
「家族の仲がいいので問題は起きない」
「早くから遺言書を書くのは縁起が悪い」


しかし、これら4つの理由には、
それぞれ小さくない誤解が含まれています。


1,「遺言書を書くほどの財産はない」の誤解

死ぬ時に財産をちょうどゼロにできる人はいません。
多かれ少なかれ財産は残されます。

そして、財産が少なければ遺産問題は生じない…
ということはないのです。
たとえ少ない財産であっても
相続争い・遺産争いが生じることがあります。

むしろ、少ない財産をめぐる争いの方が
悲惨な状態になることも多いのです。

極端な例を言えば、
自分が相続できる財産が
1億円になるか1億100万円になるかが
問題になっている場合と、
0円になるか100万円になるかが
問題になっている場合とで、
同じ100万円をめぐる争いであっても、
後者のほうが激しい争いになるということは
不思議なことではないのです。


2,「法律どおりに分けてもらえばいい」の誤解

民法は、各相続人の相続割合(法定相続分)は
定めていますが(民法900条)、
具体的な遺産分割(遺産わけ)については、

「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、
各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況
その他一切の事情を考慮してこれをする」(民法906条)

という一般的な指針を定めるのみです。

そして、相続人が
「一切の事情を考慮して」話し合った結果であれば、
たとえそれが法定相続分とは
まったく異なる割合となってもかまわない…
というのが法の考え方です。

つまり、実質上、
具体的な遺産わけの仕方については、
法は相続人に丸投げをしているのです。

「法律どおりに分けてもらえばいい」と言っても、
その法律が具体的な分け方までは規定していないのです。

なぜならば、具体的な遺産分割(遺産わけ)について、
国家が事前に判断できるような客観的な基準というものは
存在しないからです。


3,「家族の仲がいいので問題は起きない」の誤解

確かに、仲の悪い家族に較べれば、
仲のいい家族では
相続争い・遺産争いが生じる可能性は小さいでしょう。

しかし、現実に相続争い・遺産争いで
悲惨な状態になっているのは、
最初から仲の悪かった家族だけではありません。

本来は仲がよかった家族であっても、
その中を引き裂く結果となるのが相続問題なのです。

相続問題は、
「どちらか一方が悪い」あるいは
「どちらが一方が正しい」という問題ではなく、
双方ともにそれなりの言い分があることが多いのです。

このように、単純に善悪の問題ではない分、
仲のいい家族の間でも問題になることがあり、
一旦問題になると解決が難しくなるのです。


4,「早くから遺言書を書くのは縁起が悪い」の誤解

まず最初に注意したいのは、
「遺言」は「遺書」ではない!
ということです。

「先立つ不幸をお許しください…」というような「遺書」と
「遺言」とを、無意識のうちに混同してしまっている…

これが、遺言を書くのは縁起が悪いと感じる
1つの大きな原因ではないかと思います。

とは言っても、
遺言書が効力を生じるのは遺言者が死亡した時以降なので、
早くからそれを用意するというのは
やっぱり縁起が悪いと感じるかもしれません。

しかし、たとえば生命保険についていえば、
若くて健康なうちから
それほど抵抗なく契約をしているのではないでしょうか。

遺言書も生命保険も、
残された遺族の利益のため
という点では同じです。

また、それによって、
遺族だけでなく遺言者本人も
「安心」という利益を得ることができる
という点でも同じなのです。

むしろ、自分自身が現に有する財産の問題であるという点で、
遺言のほうがより基本的なものであるとすら言えるでしょう。

もちろん、生命保険の場合と同じく、
遺言書の場合も、
それを早い時期に作成したからといって、
早く死んでしまうということはありません(笑)

「縁起が悪い」と言って遺言書を書かない
ということは、
「縁起が悪い」と言って生命保険に入らない
というのと同じことです。

さらに言えば、生命保険の場合とは異なり、
遺言書の場合には、
毎月保険料を支払わなければならないというような
経済的負担は生じません。

その意味でも、遺言書を書くということは、
生命保険への加入よりもさらに、
誰もが容易にできる家族への配慮であり、
かつ、自らの安心材料なのです。


1,はじめに…
3, なぜ人は遺言書を書くべきなのか?
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